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我々はもう、この恐怖を<絵空事>とは思えない。
映画『28年後...』が、ウイルスパンデミックを経験した世界に鳴らす警鐘とは。

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はじめに

6/20(金)に日本で劇場公開される映画『28年後...』は、致命的なパンデミックを起こした“レイジウイルス”の初感染者が確認されてから【28年】が経った世界を描いたサバイバル・スリラーだ。現代を生きる人であれば、この設定から否応なしに想起してしまうのが<新型コロナウイルス>であろう。

我々は今、コロナパンデミックから数年経ち、様々な異常事態が日常へと変容した世界を生きている。しかし『28年後...』で描かれるのは、我々がまだ到達しておらず、想像すらできない“パンデミックから28年後の未来”。フィクションの世界と言われればそれまでなのだが、どうやらダニー・ボイル監督をはじめとする制作陣が我々に観せようとしているのは、<絵空事ではない>世界のようだ。

思えば2002年に公開された、本作の前日譚となる『28日後...』は、歴史の転換点となった9.11をはじめ、炭疽菌事件やSARSの流行など、2000年代始めに度重なる異常事態で現実世界に蔓延する不穏なムードを映し出していた。だが実際のところ、『28日後...』の制作が始まったのはそれらの出来事よりも前のこと。偶然が重なった結果、直後に訪れる世紀末的な時勢を予見し、世界に警鐘を鳴らす作品となったのだ。さらに今観返すと、無人のロンドンや浮き彫りになる分断、無症候性保菌者によるウイルス拡散(こちらは続編『28週後...』の設定)など、様々な点でコロナパンデミックを想起させる

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そのことからも、待望の新作『28年後...』は2019年以降のコロナパンデミックに触発されて書かれたものと考えるのが妥当だが、『28日後...』と同様に脚本を担当したアレックス・ガーランドによれば、書き始めたのはそれよりも前だという。もしかすると公開当時の『28日後...』と同様、『28年後...』はパンデミック後の今を生きる我々に「これから起こりうる恐怖」を突きつけ、警鐘を鳴らす作品なのかもしれない。その全貌はいまだ謎に包まれた『28年後...』だが、ここではシリーズの要素をおさらいしつつ、関係者インタビューや既出の情報からその内容について探っていこう。

#1

パンデミックを引き起こした
<レイジウイルス>の変異

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 ゾンビ映画の金字塔と評される『28日後...』だが、脚本家のガーランドが「彼らはレイジウイルスに感染した生きた人間」と語るとおり、人々を襲うのはゾンビではなく、ウイルスによって凶暴化した命ある人間である。もともとレイジウイルスは、ケンブリッジ霊長類研究センターで動物実験を受けていたチンパンジーから発生したもの。「暴力的な映像を拘束した状態で見せ続ける」という非人道的な動物実験に抗議する動物愛護団体がチンパンジーを解放し人へと感染、一気にイギリス全土へと広がっていった。
 レイジ=憤怒に支配された感染者は思考能力が消え、非感染者を見つけると身体のリミッターを外して全速力で襲いかかる。感染者の凶暴性以上に脅威となるのは即効性のある感染力であり、唾液や血液を一滴でも摂取すると10秒ほどで感染。そのため初動対応が遅れると瞬く間にパンデミックが発生し、いとも容易くコミュニティが崩壊してしまう。ちなみに類人猿からの感染、目の充血、激しい出血などの共通項からエボラウイルスがインスピレーション源と思われる。非常に恐ろしいウイルスだが、あくまで「人間」であるため、感染者は何も食べなければ飢餓により死に絶えることも特徴的だ。『28週後...』では、感染者は飢餓により5週間で死滅したと語られていたが、ここである疑問が浮かぶ。なぜ感染者たちは28年経っても生き延びているのだろうか?

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 その答えのヒントになりそうなのが予告編でレイフ・ファインズ演じる人物が語る「奴らは進化した。もう別物だ」という台詞。映像では地表で蠢く身体が膨れ上がった“何か”や、生存者を追いかける巨大な感染者の存在も確認できる。レイジウイルスは28年という時のなかで<変異>し、世界は新たな時代を迎えているのではないだろうか。コロナウイルスも短い期間で変異株が生まれていたのだから、現実的に考えても何もおかしな話ではない。
 ダニー・ボイル監督は感染者について『ジュラシック・パーク』の台詞を引用してこう語っている。「彼らがどのように進化したかを見せたいと思いました。なぜなら『自然は常に進化する方法を見つける(Life will find a way)』からです。その過程がどれほど醜く、不快でも、あるいはどれほど美しくても進化は決して止まりません」。また予告からは感染者だけでなく、非感染者もパンデミックに順応し、新たな生活様式を実践していることがうかがえる。そのことから推測するに、本作では“生きる”という生物学的本能が、感染者と非感染者、それぞれの人間にどのような変化を及ぼすかが迫真のリアリティで描かれるのだろう。予告編で謳われる「人間が人間でなくなる」という不穏なフレーズが作中でどのような意味を持つのか期待したい。

#2

“28年後”という期間が持つ意味とは

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 『28日後...』に『28週後...』と来たならその次は『28ヶ月後...』だろうと考えるのが普通だが、シリーズの生みの親であるボイル監督とガーランドは、新作の舞台を【28年後】の世界にすることを選択した。2002年から28年後ということであれば、作中の西暦は2030年。現在から近い未来であることも理由のひとつだと思われるが、果たしてそれだけなのだろうか?ガーランドは先んじて公開された特別映像で次のような疑問を投げかける。「まず話し合ったのは“28年後”の意味です。もしイギリスで感染が続いていたら世界はどう対応するのか?イギリスは隔離され見捨てられるか?彼ら(感染者)が28年も生き延びたら国はどうなるだろうか?野生の王国のように自然に帰るのだろうか?」。
 「時は何も癒さなかった」というキャッチコピーが示す通り、28年の時が経ち、イギリスの国家としての機能は復活するどころか完全に崩壊。市街地すら植物に覆われ、動物が駆け回る自然へと帰したことが予告からうかがえる。一方で他の国々は水際対策に成功したようで、唯一イギリスだけが隔離されている状態だという。『28週後...』ではイギリスの再建にアメリカが協力していたが、今や国家間の関係は断絶し見放された土地となったのだ。イギリスと世界の断絶…といえば、2020年1月31日に実行されたイギリスのEU離脱=ブレグジットが重なるが、ガーランドはそこから本作のインスピレーションを得たという。そのことからも、孤立した国が危機的状況に陥ったとき、世界中の国々がどれほど冷徹な態度をとるのかが描かれているのだろうと想像がつく。多くの国が、他国の危機など知らぬ振りで平和な毎日を享受する、ということは既に現実が証明しているのだから。

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 28年という年月は非感染者の人々の価値観にも変化をもたらすはずだ。パンデミックという“異常な出来事”はやがて“当たり前の日常”へと浸透し、人々はポスト・アポカリプスの世界に順応することを求められる。いとも容易く命を落としてしまう危険に満ちた世界で、人々はどのようにコミュニティを形成し、どのような生活様式で、どのようなルールに基づいて生き残っているのだろうか。「私たちの周りにあったすべての“もの”が無意味に思えたり、役に立たなくなったりしてしまった終末後の世界が、どのように再建されていくのか想像しました」とボイル監督は語る。具体的なことは謎に包まれているが、28年という期間とパンデミックがもたらすさまざまな“変化”を、ボイルとガーランドがどのように表現するのかが本作の見所であるのは間違いない。加えて言えばその“変化”は、コロナパンデミックで日常が劇的に変化した今、より説得力を持って映ることだろう。

#3

聖域と化した孤島に、謎の建造物…
現実と地続きにある世界線

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 主人公であるジェイミーとその息子のスパイクが暮らすホリー・アイランドはイングランド北東海岸に実在する総面積4㎢ほどの島(別名:リンディスファーン島)であり、実際に撮影もそこで行われた。一本の道が本土と島を繋いでいるが、渡れるのは干潮時のみという劇中の特殊な環境も事実に基づいており、島民たちはその環境を利用して要塞化することで感染者が進入できない安全なコミュニティを築いているようだ。ただし島であるがゆえに食料や燃料といった必需品の確保は困難であり、薬品や機器などは本土から調達しなければならない。島民たちにとって本土は危険に満ちた地獄であると同時に、資源豊かな黄金卿でもあるのだ。

 ホリー・アイランド(Holy Island)という神聖な名前は7世紀に修道院が建てられ、かつてキリスト教布教の拠点であったという島の歴史に由来する。まさに「聖域」と呼べる土地であるが、8世紀の終わりには修道院がバイキングに襲われたという血の歴史もあるのが不穏なポイント。そういった現実の背景に加え、神父が「審判の日」と語りながら感染者に襲われる予告の映像から“宗教”や“信仰”も重要なテーマとなっている可能性が非常に高い。文明の崩壊とともに科学が廃れた世界では、宗教が心の拠り所となるのも当然だろう。

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 さらに予告編では宗教建築を思わせる人骨で建てられた“ボーン・テンプル(白骨の神殿)”も登場。プロダクションと衣装デザインを手掛けたカーソン・マッコールによれば、ボーン・テンプルはロンドンにある新型コロナの犠牲者を追悼するメモリアルウォールと、大小さまざまな十字架が何千も並んでいるリトアニアの丘からインスピレーションを得たという。チェコのセドレツ納骨堂やポーランドのバルトロメイ教会など、骨でつくられた宗教建築はいくつも実在するが、本作のボーン・テンプルは一体誰が、どのような目的で建てたのだろうか…?現実にある要素が落とし込まれているからこそ、本作で提示される世界は、現実と地続きにあるリアルなものになっているに違いない。

#4

「戦争に終わりはない」
繰り返される不穏な言葉

 レイジウイルスにより凶暴化した感染者たちであるが、法律も秩序も失われ全土が戦場となったイギリスで、感染者と非感染者にそれほど差はあるのだろうか?『28日後...』と『28週後...』の両作で感染者以上に恐ろしく描かれていたのは、非感染者の暴力性であった。パンデミック直後でそうなら、28年も経った世界では非感染者の暴力性がさらに研ぎ澄まされていてもおかしくはない。さらに言えば『28日後...』と『28週後...』でその暴力性を発揮していたのはともに“兵士”である。前者では集団で女性を襲おうとし、後者では感染者に追われ逃げ惑う一般市民を容赦無く撃ち殺していた。そして『28年後...』でも再び兵士が描かれることは間違いなさそうだ。
 断言する理由はふたつ。ひとつは予告で銃を持った兵士が登場すること。だがこれだけではどういう描かれ方をするのかは見えてこない。そこで注目したいのが、もうひとつの理由である、予告で流れる不穏な音声これはイギリスの作家ラドヤード・キプリングが1903年に発表した詩「ブーツ」を、アメリカの俳優テイラー・ホームズが1915年に朗読したもの。第二次ボーア戦争中の南アフリカで行軍する兵士たちの思考を表現したと言われるこの詩では、兵士がブーツを上げ下げして行進する様子、そして「戦の兵士に休息はない」という言葉が何度も何度も繰り返される。それが意味するのは単調で苦痛に満ちた戦争で兵士たちの心身が疲弊していく様子。さらに軍隊行進のリズムに合わせたホームズの朗読が、詩で謳われる戦争の単調さと狂気をより強調している。このことからも『28年後...』では、戦場と化したイギリスで狂気に蝕まれゆく兵士の姿が描かれることが予想される。ただ、誰もが戦うことを余儀なくされた世界で、“兵士”とは誰のことを指すのだろうか?

 音といえば、公式Xに投稿されたティザー動画にも注目だ。「ブーツ」の朗読とともに、モールス信号のようなぶつ切りの音が挿入されている。そしてそのティザー動画とともに投稿されたリンクをクリックすると『28年後...』のUS版予告に飛ぶ。パッと見ではそれ以前に公開された予告編と大差ないようにも思えるが、よくよく目を凝らすと映像の至るところに暗号のような文字が隠されている(いずれも一瞬しか映らない)。その数は全部で11文字。いまだ謎に包まれているので詳しく言及することは避けるが、そのモールス信号と暗号に『28年後...』の重要な情報が隠されているに違いない。

#5

続編ではなく、新たな始まり

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 『28日後...』と『28週後...』の続編としても位置付けられる本作だが、ボイル監督は本作を「続編ではなく、新たな始まり」と語っている。確かにパンデミックから間もない社会を描いたこれまでの物語と、レイジウイルスが世界の常識として浸透したあとの物語ではその描き方はまったく変わってくることだろう。予告編に映る主人公たちは、弓を手に、文明が廃れ自然に侵食された後のイギリスを探索している。その姿からも、本作ではこれまで以上のサバイバル要素やアクション性も期待できそうだ。キャストも刷新され、アーロン・テイラー=ジョンソンやジョディ・カマーなど今の映画業界を牽引する実力派俳優のほか、新鋭アルフィー・ウィリアムズ、さらには『教皇選挙』でアカデミー賞候補となり注目を集めた名優レイフ・ファインズが参加。『28日後...』の主人公ジムを演じたキリアン・マーフィはプロデューサーとして名を連ねている。

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 新たな物語としながらも、シリーズとして『28日後...』のスピリットを明確に受け継いでいると感じるのはそのユニークな撮影方法だ。撮影監督は『28日後...』をはじめ、アカデミー賞撮影賞を受賞した『スラムドッグ$ミリオネア』などボイル監督と度々組んでいるアンソニー・ドッド・マントル。『28日後...』の撮影に使われたのはデジタルビデオだが、それは当時は家庭用のビデオカメラがあらゆるところに普及していたから、終末世界の恐怖が、あちこちに低品質なビデオ映像として残されているだろう」というメタ的なアイデアから生まれたもの。その手作り感のあるザラザラとした映像の質感が『28日後...』に奇妙な真実味を宿していた。それから28年経った世界で、当時のデジタルビデオと同じように普及している動画撮影デバイスといえば……そう、iPhoneである。

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 単純に撮影用カメラをiPhoneに置き変えるだけでなく、コンパクトさを有効活用した20台同時撮影など新しい試みも行われている。複数のiPhoneが一人の感染者を囲むメイキング画像が公開されたが、その撮影で一体どのような映像が出力されるのだろうか。さらにはクリストファー・ノーラン監督作『オッペンハイマー』でも使用された“2.76対1”という極めて幅広のアスペクト比が採用されたという。「人々を震え上がらせる映像にしました。以前よりも刺激的な映像が求められていると感じています」とボイル監督が語る通り、かつてないほど刺激的で没入感のある映像に仕上がっているに違いない。

ストーリーのみならず、技術的な部分においても“新たな始まり”を告げる作品であろう『28年後...』は、一体我々にどんな恐怖を見せてくれるのだろうか。期待は膨らむばかりである。
ダニー・ボイルとアレックス・ガーランドが語る特別映像

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