パンデミックを引き起こした
<レイジウイルス>の変異

ゾンビ映画の金字塔と評される『28日後...』だが、脚本家のガーランドが「彼らはレイジウイルスに感染した生きた人間」と語るとおり、人々を襲うのはゾンビではなく、ウイルスによって凶暴化した命ある人間である。もともとレイジウイルスは、ケンブリッジ霊長類研究センターで動物実験を受けていたチンパンジーから発生したもの。「暴力的な映像を拘束した状態で見せ続ける」という非人道的な動物実験に抗議する動物愛護団体がチンパンジーを解放し人へと感染、一気にイギリス全土へと広がっていった。
レイジ=憤怒に支配された感染者は思考能力が消え、非感染者を見つけると身体のリミッターを外して全速力で襲いかかる。感染者の凶暴性以上に脅威となるのは即効性のある感染力であり、唾液や血液を一滴でも摂取すると10秒ほどで感染。そのため初動対応が遅れると瞬く間にパンデミックが発生し、いとも容易くコミュニティが崩壊してしまう。ちなみに類人猿からの感染、目の充血、激しい出血などの共通項からエボラウイルスがインスピレーション源と思われる。非常に恐ろしいウイルスだが、あくまで「人間」であるため、感染者は何も食べなければ飢餓により死に絶えることも特徴的だ。『28週後...』では、感染者は飢餓により5週間で死滅したと語られていたが、ここである疑問が浮かぶ。なぜ感染者たちは28年経っても生き延びているのだろうか?

その答えのヒントになりそうなのが予告編でレイフ・ファインズ演じる人物が語る「奴らは進化した。もう別物だ」という台詞。映像では地表で蠢く身体が膨れ上がった“何か”や、生存者を追いかける巨大な感染者の存在も確認できる。レイジウイルスは28年という時のなかで<変異>し、世界は新たな時代を迎えているのではないだろうか。コロナウイルスも短い期間で変異株が生まれていたのだから、現実的に考えても何もおかしな話ではない。
ダニー・ボイル監督は感染者について『ジュラシック・パーク』の台詞を引用してこう語っている。「彼らがどのように進化したかを見せたいと思いました。なぜなら『自然は常に進化する方法を見つける(Life will
find
a
way)』からです。その過程がどれほど醜く、不快でも、あるいはどれほど美しくても進化は決して止まりません」。また予告からは感染者だけでなく、非感染者もパンデミックに順応し、新たな生活様式を実践していることがうかがえる。そのことから推測するに、本作では“生きる”という生物学的本能が、感染者と非感染者、それぞれの人間にどのような変化を及ぼすかが迫真のリアリティで描かれるのだろう。予告編で謳われる「人間が人間でなくなる」という不穏なフレーズが作中でどのような意味を持つのか期待したい。